東京地方裁判所 昭和25年(ヨ)2154号 決定
(十五名選定当事者)
申請人 高橋寛一
被申請人 国際産業株式会社
一、保証 無保証
二、主 文
被申請人は、申請人に対し、別紙第二目録記載の金員を支払わなければならない。
申請人のその余の申請は、これを却下する。
三、理 由
当裁判所の判断の要旨は、次のとおりである。
一、別紙目録記載の選定者等は、いずれも被申請人会社の従業員であつたが、被申請人会社は、昭和二十五年五月二十五日右選定者等に対し、同年六月二十五日限り解雇する旨の予告をなした。(選定者松本南亀、同野村照子についても、従業員を全員解雇する旨の意思表示により、右解雇の予告があつたものと認める。)
二、被申請人会社は、金融の困難その他の事由により、昭和二十五年五月五日以降継続的に休業し、六月二十五日にいたつている。従つて、被申請人会社は右選定者等に対し、労働基準法第二十六条所定の休業手当を支払わなければならぬことはいうまでもない。
この点に関し、申請人は「被申請人会社の責に帰すべき事由に因り、選定者等は、労働の履行をなすことができなかつたのであるから、反対給付たる賃金全額の支払を請求することができる。」と主張する。
そこで、労働基準法第二十六条と使用者の責に帰すべき事由による履行不能(民法第五百三十六条第二項)ないし債権者の受領遅滞(民法第四百十三条)との関係を考察すると労働基準法第二十六条が特約のない限り、平均賃金の「百分の六十」の休業手当の支払を要求するにとどめている点に徴すれば、同条は、使用者の立場を考慮しつつ、右民法の規定の要件を緩和して、その適用範囲を拡張することにより、一定の限度において労働者の地位を保護しようとするものであると解することができる。すなわち、民法にいう「債権者の責に帰すべき事由」とは、債権者の故意、過失又は、信義則上これと同視すべきものを意味するものとして、極めて狭義に理解せられているのであるが、本条の「使用者の責に帰すべき事由」とは、これよりもひろく、企業の経営者として不可抗力を主張し得ないすべての場合(たとへば、経営上の理由により休業する場合)を含むものと解すべきである。
本件の場合は、右第二十六条にいう「使用者の責に帰すべき事由」に該当し、民法の「債権者の責に帰すべき事由」には該当しない、と解するのが相当である。
従つて、選定者は、被申請人会社に対し、別紙第二目録「休業手当」欄記載の金員を請求する権利があるが、右の限度を超えて、賃金全額を請求する権利はない。
三、次に、被申請人会社は、選定者等に対し、「退職金規定」による退職金を支払わなければならない。
(1) その基準となる「退職時における月の平均賃金」とは、解雇前一ケ月間(本件では、昭和二十五年五月二十七日から六月二十五日まで)の賃金の総額を、その期間中に労働した日数で除した金額の三十日分であるということができる。しかるに、右一ケ月間は全く休業していたのであるから、右の「平均賃金」とは右期間中、労務を提供したならば、通常得たのであらうところの賃金を指す、と解するのが合理的である。
しかるに、休業手当とは右の通常得べかりし賃金の百分の六十であるということができる。
そうすると、特別の事情のない限り前記休業手当の「六十分の百」が、「退職時における月の平均賃金」であるということができる。
{休業手当=通常得べかりし賃金×(60/100)故に
通常得べかりし賃金=退職の月の平均賃金=休業手当(100/60)×(30/30)}
(2) 「入社退職の月は凡て之を一ケ月とする。」とは、入社及び退職の月は各々これを一ケ月として計算する趣旨であると解すべきである。
(3) 右の基準により退職金は、別紙第二目録「退職金」欄記載のとおりとなる。
四、かくて選定者等は、被申請人会社に対し、右休業手当及び退職金、(別紙第二目録「請求額合計」欄記載の金額)の支払を求める権利がある。
(選定者等が、その請求権を抛棄し、又は弁済を猶予したという事実は認められない。)
五、選定者等が、右休業手当並びに退職金の支払を受け得ないことによつてこうむる損害は、現時の経済情勢に照し極めて著しいということができる。
このような緊急性の存する場合には債権者に満足を与える仮処分をなすも違法ではない。
よつて右認定の限度において申請人の申請を認容し、その余は失当としてこれを却下すべきものとし、主文のとおり決定したしだいである。
(裁判官 柳川真佐夫 古山宏 高島良一)
別紙目録<省略>